こども安全設計ガイド【評価編】

ハザード別の設計・評価方法、製品タイプ別チェックリスト、認証の流れ。規格の全体像は規格編へ。

4ハザード別 設計・評価法

子ども用品の事故は「誤飲・窒息」「ひもの絞扼」「鋭利部」「挟み込み」「強度不足」「化学物質」「可燃性」の7パターンにほぼ集約されます。1つずつ、規定 → 試験方法 → 設計のコツの順で見ていきます。

4-1. 誤飲・窒息 — 小部品シリンダーと小球

内径 φ31.7mm 25.4mm 57.1mm 底面が斜めの円筒(のどの模型)

図3 小部品シリンダー。どの向きに入れても完全に収まる部品は3歳未満向けに使えない

φ44.5mm この円を通過する球形・半球形はNG(3歳未満) 球はのどの奥で気道を完全に塞ぐため特に危険

図4 小球試験。球形は小部品より大きくても窒息リスクがある

規定数値評価方法
小部品(3歳未満向け)φ31.7 × 25.4〜57.1mm の円筒に完全に入る部品 禁止そのまま入れて確認+濫用試験後(落下・ねじり・引張・圧縮)に外れた部品でも確認
小球(3歳未満向け)φ44.5mmの円を通過する球・半球 禁止ゲージ通過試験。3歳以上向けは警告表示
事故実態約30mm以下で誤嚥事故の約8割規格ギリギリを避け、余裕を持った大きさに
半球形の容器状口鼻を覆う窒息防止に通気穴などが要求される
設計のコツ:3歳未満向けは「最小部品の3方向寸法のどれかが57mm超」を初期ルールにすると安全側に立てます。シールや薄いフィルムも剝がれて口に入るため小部品として扱うこと。ぬいぐるみの目・鼻パーツは引張試験(濫用試験)で取れないことが必須です。

4-2. ひも・絞扼(子ども服) — JIS L4129 の部位別ルール

子ども服のひもは、フードのひもが遊具に引っ掛かる事故(2〜8歳に多い)、腰・裾のひもがバスのドア等に挟まれる事故(10〜14歳に多い)を防ぐため、体の部位ごとにルールが決まっています。「年少」=服の呼び方120まで、「年長」=130〜160です。

A B C EE 前面(A=頭・首 / B=胸・腰 / C=股下 / E=腕) A D EE 背面(D=背中:ひも原則禁止)

図5 JIS L4129の部位区分。部位ごとに下表のルールが適用される

部位年少(〜120)年長(130〜160)
A:頭・首まわり引きひも・装着ひも・装飾ひも全面禁止。調節タブは75mm以下引きひもの自由端禁止・絞ったときのループ円周150mm以下。装着ひも・タブ75mm以下
ショルダーストラップ前後を1本でつなぐ構造。装飾ひもは自由端なし・ループ円周75mm以下・伸縮ひも不可自由端は締結点から140mm以下・ループ円周75mm以下
B:胸・腰(内側・外側とも)引きひもの突き出しは開いた状態で各端140mm以下、閉じた状態で280mm以下(ループ円周も280mm以下)。装着ひも・装飾ひも・タブは140mm以下。後ろ結びベルトは360mm以下(年少は裾から垂れ下がり禁止)・前結びも360mm以下
C:股下(裾)裾から垂れ下がるひも禁止。くるぶし丈の服は裾ひもを完全に内側へ。調節タブは縦140mm/横100mm以下
D:背中背中から出る・背中で結ぶひも禁止(結びベルト・帯のみ例外)。タブ75mm以下
E:袖長袖の袖口ひもは完全に内側へ。半袖(肘上)の突き出しは75mm以下同左。半袖の突き出しは140mm以下
共通ベルトループは円周(または接合点間)75mm以下。ファスナ引手の装飾は75mm以下(くるぶし丈の裾では下方へ10mm以下)。その他の部位の突き出しは140mm以下。頭・首の伸縮ひもは顔面損傷のもとで原則不可
設計のコツ:迷ったら「ひもをなくす」のが最善(ゴム編み・面ファスナー・スナップで代替)。フード自体もひも同様に引っ掛かりリスクがあり(規格の附属書F)、取り外し式や引っ張ると外れる構造が推奨です。ひもの端はヒートカットやアグレットで処理し、硬く尖らないこと。

安全具(ブレークアウェイ)で逃げられるか?

対象「一定荷重で外れる安全具」の扱い
子ども服(JIS L4129)荷重による例外規定はなし。長さ制限・部位禁止がすべてで、「外れる部品を付けたから長くてよい」は不可。フードのみ附属書F(参考)で「引っ張ると外れる構造が望ましい」とされるが、荷重値の規定はない
おもちゃの首掛けひも(EN 71-1)固定ループになる首掛けひも・ストラップはブレークアウェイ必須。分離試験で25±2N(約2.5kgf)の引張により分離すること。「引っ掛かって体重がかかれば確実に外れ、通常使用では外れない」水準
名札・キッズ携帯ストラップ等公的規格はなく、業界慣行として分離式セーフティパーツが普及(分離荷重は各社基準)。設計するならEN 71-1の25Nが参考値になる

服で安全具方式が採用されていないのは、洗濯や付け替えで分離機能が劣化しやすく、長さ管理のほうが確実だからです。首に掛かるループを製品に作る場合は「そもそもループを作らない → 作るならブレークアウェイ25N」の順で検討を。

4-3. 鋭利端・突起・バリ

ハザード評価方法設計のコツ
切り傷(エッジ)シャープエッジテスター(規定テープの切れで判定)成形品の合わせ目(パーティングライン)のバリ取り、板金端の折り返し、面取り・R付け
刺し傷(ポイント)シャープポイントテスター先端R≧規定値。折れて鋭利になる素材(硬質PSなど)を薄肉で使わない
木のささくれ目視・触診研磨と面取り、割れにくい木種の選定

4-4. 挟み込み・開口部

部位考え方使うデータ
指が入る穴は、奥で細くなって抜けなくなる形状・回転部への到達がNG。「指が入らない」か「余裕をもって抜ける」かの二択に指の太さ:1歳の小指 爪基部幅 約7.9mm・人差し指 約8.7mm →からだ寸法帳の指データでP95まで確認
頭が入って抜けなくなる開口(棚・柵・遊具的な製品)を作らない。「胴は通るが頭は通らない」寸法帯が最も危険頭囲・頭幅のパーセンタイル(からだ寸法帳の子どもタブ)
可動部ヒンジ・折りたたみ機構のせん断点に指が届かない構造(カバー、隙間管理)JIS S 0121の試験プローブ+JIS S 0122(部品の外れ)
共通試験方法(NITE発・JIS化済み):挟み込みはJIS S 0121:2021(0〜6歳児約500名の実測から作られた体幹・頭部・頚部・フィンガー等の試験プローブを隙間に差し込んで確認)、部品の外れはJIS S 0122:2022(つかめる部品・シールのはがれ・車輪など6カテゴリ)。NITEのページ↗では試験プローブの3Dプリンタ用STLデータが無料配布されており、自宅・自社での事前検査に使えます。鋭利エッジ・製品破損・からみつき・チャイルドレジスタンスの規格案も同ページで公開中。

4-5. 強度・濫用試験 — 「壊れても安全」に壊れるか

落下(複数回) ねじり(トルク) 引張(部品) 圧縮

図6 「合理的に予測可能な濫用試験」の4本柱。試験後に小部品・鋭利端が生じないことが合格条件

考え方:子どもは説明書どおりに使いません。投げる・かじる・踏む・分解するを前提に、壊れた後の状態(破片が小部品にならないか、断面が鋭利にならないか)まで設計するのが子ども用品の強度設計です。荷重値・回数は対象年齢で変わるため、ST基準書・ISO 8124原文で確認してください。

4-6. 化学物質 — 材料選定で9割決まる

物質・項目対象規制値・要求根拠
ホルムアルデヒド生後24か月以下向けの繊維製品(肌着・寝具等の指定品目)吸光度差0.05以下(≒16µg/g)=実質「検出せず」レベル家庭用品規制法
ホルムアルデヒド一般の下着・寝衣等(直接肌に触れるもの)75µg/g以下家庭用品規制法
フタル酸エステル類(DEHP・DBP・BBPなど)おもちゃの可塑化材料(塩ビなど)、口に接触する部分0.1%以下(物質・部位別の規定あり)食品衛生法
重金属の溶出(鉛・カドミウム等)塗膜・材料溶出試験の限度値(物質別)食品衛生法ST基準(EN 71-3系)
特定芳香族アミン(アゾ染料)繊維・革製品の染料規制対象(詳細は法令参照)家庭用品規制法
設計のコツ:後工程で試験落ちすると作り直しになるため、生地・樹脂・塗料の段階で「適合証明付きの材料」を選ぶのが鉄則。玩具用なら「食品衛生法適合」「ST/EN71対応」を材料メーカーに明示して調達し、ロットごとの試験成績書を保管します。乳幼児服の樹脂プリント・接着芯はホルムアルデヒドの移染(保管中にうつる汚染)にも注意(個包装が定番の対策)。

4-7. 可燃性

起毛した布・ぬいぐるみは表面を炎が走る「表面フラッシュ」が起きやすく、ST基準第2部・EN 71-2で燃焼速度などが規定されています。起毛素材や綿毛布様の生地を使う場合は必ず可燃性試験を。セルロイド様素材は使用不可です。

5製品タイプ別チェックリスト

設計レビューにそのまま使える形にしました。印刷して試作品の横でチェックしてください(☐はチェック欄)。

👕 子ども服・ベビー服(縫製品)

🧸 ぬいぐるみ(縫製おもちゃ)

🚗 プラスチック・木のおもちゃ(成形品)

🍼 育児用品(ベビーカー・ベッド・食器など)

6評価・認証の流れ

1企画・対象年齢の決定月齢・年齢で適用規格が確定(規格編の図2)。「なんとなく全年齢」は一番厳しい規制が全部かかる
2設計(このガイド+寸法)ハザード別ルールを織り込み、材料は適合証明付きで調達。体の寸法はからだ寸法帳
3自社評価チェックリスト+自作ゲージ(シリンダー等)で試作品を潰し込み。ここで落とすほど安い
4第三者試験日本文化用品安全試験所・カケン・ボーケン・JCIIなどでST/SG/法規試験
5マーク申請・表示ST(日本玩具協会)/SG(製品安全協会)。対象年齢・警告・品質表示を製品とパッケージに
6市販後事故情報の収集。重大製品事故は消安法により報告義務。改良にフィードバック
テーマリンク
マークの意味(入門)消費者庁:子ども用品のマークの意味政府広報:STマークとは
おもちゃ(ST基準)日本玩具協会:ST制度NITE:おもちゃの法規制まとめ経産省:玩具安全の論点(小部品・小球の解説)
子ども服のひもJIS L4129 本文経産省:子ども服の安全基準ボーケン解説
服のサイズJIS L4001 本文からだ寸法帳(姉妹サイト:人体寸法データ)
化学物質東京都:ホルムアルデヒド規制Q&A
育児用品・共通試験NITE:乳幼児用製品の共通安全対策/製品安全協会(SG基準・品目別)
試験機関日本文化用品安全試験所/カケンテストセンター/ボーケン品質評価機構/JCII 化学研究評価機構
設計思想経産省:キッズデザインの推進キッズデザイン賞:審査のポイント

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