1規格の地図 — 何が強制で、何が任意か
子ども用品の「基準」は1つではなく、①法律(守らないと販売できない)、②業界の自主基準(任意だが取引上ほぼ必須)、③JIS・国際規格(設計と試験方法の共通言語)の3層でできています。まずこの構造を押さえると、すべてが整理できます。
図1 子ども用品の基準の3層構造。下の層ほど「どう作るか・どう測るか」が具体的になる
製品カテゴリ × 適用される主な基準
表に出てくる各規格の中身は → 2. 規格別早わかり で図解しています。
実務のコツ:「JISやSTは任意だから守らなくてよい」は誤解のもと。小売・EC・保育園納入では適合が取引条件になるのが普通で、事故時には適合していたかが過失判断の材料になります。設計初期から「強制+自主+JIS」のフルセットで設計するのが結局いちばん安上がりです。
2規格別早わかり — それぞれ何を定めていて、このガイドのどこに対応するか
名前だけ聞いてもわかりにくい各規格を、「中身の構成」と「このガイドで対応する節」のセットで整理します。青いボタンがガイド内の該当説明へのジャンプです。
法律・強制
食品衛生法(おもちゃ規制)
「乳幼児が口に入れるもの」を食品なみに規制する唯一の強制法規
6歳未満向け・口に接触するおそれ→
「指定おもちゃ」に該当→
材料規格(フタル酸0.1%等)+
溶出試験(重金属など)
→ このガイドの説明:4-6 化学物質4-1 誤飲・窒息原文解説:NITE↗
法律・強制
家庭用品規制法
肌に触れる製品の有害化学物質を物質ごとに規制(違反は販売禁止)
ホルムアルデヒド24か月以下向けの肌着・寝具等:吸光度差0.05以下(≒16µg/g、実質「検出せず」)/一般の肌着類:75µg/g以下
特定芳香族アミンアゾ染料由来。繊維・革製品の染料が対象
その他の指定物質防炎加工剤・有機水銀など、用途別に規制物質を指定
→ このガイドの説明:4-6 化学物質原文解説:東京都Q&A↗
JIS(任意)
JIS L 4129「よいふく」(子ども服のひも)
ひもの引っ掛かり事故(フード×遊具、腰ひも×ドア)を防ぐ、体の部位別のひもルール
A|頭・首年少(〜120)はひも全面禁止。年長はループ150mm以下
B|胸・腰突き出し 開140/閉280mm以下、結びベルト360mm以下
C・D|裾・背中裾から垂れ下がり禁止、背中から出るひも禁止
E|袖長袖は内側のみ。半袖は年少75/年長140mm以下
→ このガイドの説明:4-2 服のひも(部位図と全数値表)原文:JIS本文↗
法律・強制
消費生活用製品安全法(消安法)
売った後の義務を定める法律。事故が起きたときのルール
重大製品事故の発生→
事業者は10日以内に国へ報告(義務)→
公表・リコール対応
→ このガイドの説明:6 評価・認証の流れ(市販後)解説:消費者庁↗
国際規格
ISO 8124/EN 71/ASTM F963(玩具の国際規格)
海外に売るなら仕向け地の規格。中身はST基準とほぼ同じ3部構成
ISO 8124(国際)-1 機械的・物理的/-2 可燃性/-3 化学的。STはこれを参考に作られている
EN 71(欧州)EU販売はCEマーキング必須。ひも・小部品の考え方はL4129/STの源流
ASTM F963(米国)米国はCPSIA法で強制。小部品はCPSC 16 CFR 1501(シリンダー)
→ このガイドの説明:4-1 誤飲・窒息4-5 濫用試験解説:カケン↗
法律・強制
家庭用品品質表示法・電気用品安全法
売るために必要な「表示」と、電気を使う場合の追加規制
品質表示法衣類は繊維組成・洗濯絵表示(JIS L0001)・表示者名が必須
電気用品安全法ACアダプタなどはPSEマーク対象。電池おもちゃは電池蓋のねじ止め(ST側の要求)とあわせて
→ このガイドの説明:5 チェックリスト(子ども服・成形品)
EU規制(輸出時)
RoHS指令(電気電子機器の有害物質)
EUに売る場合のみ法的義務(国内販売のみなら義務なし)。日本の玩具規制とは「測り方の思想」が違う
RoHS=含有量規制材料中の総量を制限:鉛0.1%・水銀0.1%・カドミウム0.01%・六価クロム0.1%・臭素系難燃剤(PBB/PBDE)0.1%・フタル酸4種 各0.1%の計10物質
日本の玩具規制=溶出規制唾液・汗に「溶け出す量」で判定(食品衛生法・ST第3部)。溶け出さなければ含有は問わない
日本のすき間臭素系難燃剤の含有規制なし。電安法(PSE)は電気的安全のみで物質規制なし。J-Mossは特定家電7品目の表示制度のみ
EU向け電動おもちゃ→
RoHS+EN 71+玩具指令(CEマーキング)の三点セット
実務のコツ:国内販売のみならRoHSは法的義務なし(国内の強制法規は食品衛生法・電安法など)。ただし大手取引先の調達基準で要求されることが多く、基板・電子部品は「RoHS適合品」が標準流通しているため、国内専用でもRoHS適合部品で組むを社内ルールにすると追加コストほぼゼロで厳しい側に揃う。中国・韓国などにもRoHS類似法があり仕向け地ごとに要確認。→ 4-6 化学物質国際規格カード
EU規制(輸出時)
REACH規則(化学物質の包括規制)
EUに売るあらゆる製品(服・おもちゃ・雑貨)に適用される化学物質の横断ルール。RoHSより広い
制限物質(附属書XVII)用途別の禁止・制限リスト。玩具・育児用品のフタル酸4種0.1%、アクセサリの鉛・カドミウム・ニッケル、革の六価クロム、アゾ染料など
SVHC(高懸念物質)候補リスト(年2回更新・約250物質)。製品中0.1wt%超で川下への情報伝達義務+消費者から聞かれたら45日以内に回答
対象の広さ電気製品に限らず「成形品」全般=縫製品もぬいぐるみも対象。RoHSは電気電子機器のみ、REACHは全部
実務のコツ:EU向けは素材調達時に「REACH対応(SVHC含有調査票つき)」を条件にするのが定石。国内販売のみなら法的義務なし。→ 4-6 化学物質SVHC候補リスト(ECHA)↗
米国規制(輸出時)
CPSIA(米・子ども製品安全改善法)
12歳以下向け製品ぜんぶ(服も玩具も)が対象。「第三者試験+証明書+追跡ラベル」が三点セットで義務
鉛の含有規制基材100ppm以下・塗膜/表面コート90ppm以下(総含有量ベース。日本の溶出規制より厳しい思想)
フタル酸8種各0.1%以下(玩具・チャイルドケア用品)。日本・EUの規制物質より数が多い
手続きの義務CPSC認定ラボでの第三者試験 → CPC(子ども製品証明書)発行 → 製品への追跡ラベル(トラッキングラベル)表示。玩具はASTM F963が強制規格
実務のコツ:米国は「試験成績書がないと通関・Amazon出品できない」運用が徹底している。小部品はCPSC 16 CFR 1501(シリンダー、日本と同形状)。→ 4-1 誤飲・窒息CPSC解説↗
韓国規制(輸出時)
KC認証(子ども製品安全特別法)
13歳以下向け製品にKCマークが必須。リスクの高さで手続きが3段階
安全認証(高リスク:乳幼児用品等)/
安全確認(試験+届出)/
供給者適合性確認(自己確認)
共通安全基準重金属・フタル酸(0.1%)などの化学要求+品目別の物理要求。玩具は日本ST・ISO 8124と似た構成
対象年齢「13歳以下が使う製品」と広く、子ども服・文具・雑貨も品目指定されている
実務のコツ:韓国指定試験機関での試験が必要になるため、輸出が視野にあるなら日本の試験とまとめて依頼すると効率的。→ 6 評価・認証の流れSafety Korea↗
中国規制(輸出時)
中国 CCC認証・GB規格
玩具は強制認証CCC、子ども服はGB 31701。中国国内販売には必須
玩具:CCC+GB 667514歳未満向け玩具の一部品目はCCC(中国強制認証)必須。技術基準はGB 6675(ISO 8124ベース+独自要求)
子ども服:GB 31701乳幼児・子ども繊維製品の安全技術規範。肌への接触でA類(乳幼児)/B類/C類に分類し、ホルムアルデヒド・pH・ひも規制(EN 14682系)を規定
電気:China RoHS電子電気製品の有害物質規制(表示中心)。EUのRoHSとは運用が異なる
実務のコツ:中国は「規格の中身は国際規格ベースだが、認証手続きとラベルが独自」。現地代理人・中国指定ラボが必要になるため、商社・認証代行の利用が一般的。→ 国際規格カード
海外展開の早見表
| 仕向け地 | 玩具の枠組み | 子ども服 | 化学物質 | 特徴 |
| 日本 | ST基準(任意)+食品衛生法 | JIS L4129(任意)+家庭用品規制法 | 溶出中心 | 自主基準が実質標準 |
| EU | 玩具指令+EN 71+CE(強制) | EN 14682(ひも) | REACH+RoHS(含有中心) | SVHCの継続監視が必要 |
| 米国 | CPSIA+ASTM F963(強制) | CPSIA(鉛・ひも引火性等) | 鉛100/90ppm・フタル酸8種 | 第三者試験+CPC+追跡ラベル |
| 韓国 | KC(強制・3段階) | KC品目指定あり | 共通安全基準 | 指定ラボでの試験 |
| 中国 | CCC+GB 6675(強制) | GB 31701(A/B/C類) | GB各論+China RoHS | 現地手続きが独自 |
3対象年齢で要求ががらりと変わる
同じおもちゃでも「何歳向けか」で適用される要求が大きく変わります。最初に対象年齢(月齢)を決めることが、設計のスタート地点です。
図2 年齢と主な規制の適用範囲。「36か月未満」と「24か月以下」が2大分岐点