こども安全設計ガイド【規格編】

子ども用品(服・ぬいぐるみ・おもちゃ・育児用品)の規格と試験方法を公的資料に基づいて図解した実務ガイド。このページは規格編(どんな規格があり、何が強制か)。設計・試験・チェックリストは評価編へ。

1規格の地図 — 何が強制で、何が任意か

子ども用品の「基準」は1つではなく、①法律(守らないと販売できない)、②業界の自主基準(任意だが取引上ほぼ必須)、③JIS・国際規格(設計と試験方法の共通言語)の3層でできています。まずこの構造を押さえると、すべてが整理できます。

① 法律(強制) 食品衛生法(おもちゃ)・消費生活用製品安全法・家庭用品規制法(ホルムアルデヒド等)・電気用品安全法 ② 業界自主基準(任意・事実上必須) ST基準(おもちゃ/STマーク)・SG基準(育児用品/SGマーク) ③ JIS・国際規格(設計と試験方法の共通言語) JIS L4001(ベビー服サイズ)・JIS L4129(服のひも)・ISO 8124/EN 71/ASTM F963(玩具)

図1 子ども用品の基準の3層構造。下の層ほど「どう作るか・どう測るか」が具体的になる

製品カテゴリ × 適用される主な基準

作るもの法律(強制)自主基準JIS・国際規格
子ども服・ベビー服(縫製品)家庭用品規制法 ホルムアルデヒド等
品質表示法 繊維組成・洗濯表示
JIS L4001 サイズ
JIS L4129 ひもの安全
JIS L0001 洗濯絵表示
ぬいぐるみ(縫製品)食品衛生法(6歳未満向けおもちゃ指定)ST基準 機械的・可燃性・化学ISO 8124 / EN 71
プラスチック・木のおもちゃ(成形品)食品衛生法 材料・フタル酸等ST基準ISO 8124 / EN 71 / ASTM F963
電動のおもちゃ電気用品安全法(ACアダプタ等)ST基準(電気的安全含む)ISO 8124 ほか・RoHS(EU)
食器・哺乳用品・歯がため食品衛生法 溶出試験SG基準(品目による)
ベビーカー・抱っこひも・ベッド等消安法(重大事故報告義務)SG基準 品目別基準NITE 共通試験方法↗

表に出てくる各規格の中身は → 2. 規格別早わかり で図解しています。

実務のコツ:「JISやSTは任意だから守らなくてよい」は誤解のもと。小売・EC・保育園納入では適合が取引条件になるのが普通で、事故時には適合していたかが過失判断の材料になります。設計初期から「強制+自主+JIS」のフルセットで設計するのが結局いちばん安上がりです。

2規格別早わかり — それぞれ何を定めていて、このガイドのどこに対応するか

名前だけ聞いてもわかりにくい各規格を、「中身の構成」と「このガイドで対応する節」のセットで整理します。青いボタンがガイド内の該当説明へのジャンプです。

自主基準

ST基準(玩具安全基準)

14歳未満向けおもちゃの総合基準。第三者検査に合格するとSTマークを表示できる
第1部|機械的・物理的小部品・小球・鋭利端・強度(濫用試験)・ひも・磁石・音圧など、形と壊れ方の安全
第2部|可燃性燃えやすい素材の禁止、表面フラッシュ(起毛・ぬいぐるみ)の燃焼速度
第3部|化学的重金属の溶出、塗料・材料の有害物質(食品衛生法と連動)

→ このガイドの説明:4-1 誤飲・窒息4-3 鋭利端4-5 強度・濫用試験4-7 可燃性4-6 化学物質原文:日本玩具協会↗

法律・強制

食品衛生法(おもちゃ規制)

「乳幼児が口に入れるもの」を食品なみに規制する唯一の強制法規
6歳未満向け・口に接触するおそれ 「指定おもちゃ」に該当 材料規格(フタル酸0.1%等) 溶出試験(重金属など)

→ このガイドの説明:4-6 化学物質4-1 誤飲・窒息原文解説:NITE↗

法律・強制

家庭用品規制法

肌に触れる製品の有害化学物質を物質ごとに規制(違反は販売禁止)
ホルムアルデヒド24か月以下向けの肌着・寝具等:吸光度差0.05以下(≒16µg/g、実質「検出せず」)/一般の肌着類:75µg/g以下
特定芳香族アミンアゾ染料由来。繊維・革製品の染料が対象
その他の指定物質防炎加工剤・有機水銀など、用途別に規制物質を指定

→ このガイドの説明:4-6 化学物質原文解説:東京都Q&A↗

JIS(任意)

JIS L 4129「よいふく」(子ども服のひも)

ひもの引っ掛かり事故(フード×遊具、腰ひも×ドア)を防ぐ、体の部位別のひもルール
A|頭・首年少(〜120)はひも全面禁止。年長はループ150mm以下
B|胸・腰突き出し 開140/閉280mm以下、結びベルト360mm以下
C・D|裾・背中裾から垂れ下がり禁止、背中から出るひも禁止
E|袖長袖は内側のみ。半袖は年少75/年長140mm以下

→ このガイドの説明:4-2 服のひも(部位図と全数値表)原文:JIS本文↗

JIS(任意)

JIS L 4001(乳幼児用衣料のサイズ)

ベビー服の「サイズ50〜100」表記のおおもと。呼び方=身長
呼び方(50・60・70…100)=身長cm 基本身体寸法:身長+体重 参考身体寸法18項目(胸囲・頭囲・腕の長さ・股の高さ…)で服を設計

→ このガイドの説明:5 チェックリスト(子ども服)全サイズ表:からだ寸法帳↗原文:JIS本文↗

自主基準

SG基準(製品安全協会)

ベビーカー・ベビーベッドなど育児用品の品目別基準。SGマーク+対人賠償措置つき
品目別に基準書(構造・強度・表示) 型式確認+工場等の検査 SGマーク表示(欠陥による人身事故に賠償措置)

→ このガイドの説明:5 チェックリスト(育児用品)4-4 挟み込み原文:製品安全協会↗

法律・強制

消費生活用製品安全法(消安法)

売った後の義務を定める法律。事故が起きたときのルール
重大製品事故の発生 事業者は10日以内に国へ報告(義務) 公表・リコール対応

→ このガイドの説明:6 評価・認証の流れ(市販後)解説:消費者庁↗

国際規格

ISO 8124/EN 71/ASTM F963(玩具の国際規格)

海外に売るなら仕向け地の規格。中身はST基準とほぼ同じ3部構成
ISO 8124(国際)-1 機械的・物理的/-2 可燃性/-3 化学的。STはこれを参考に作られている
EN 71(欧州)EU販売はCEマーキング必須。ひも・小部品の考え方はL4129/STの源流
ASTM F963(米国)米国はCPSIA法で強制。小部品はCPSC 16 CFR 1501(シリンダー)

→ このガイドの説明:4-1 誤飲・窒息4-5 濫用試験解説:カケン↗

法律・強制

家庭用品品質表示法・電気用品安全法

売るために必要な「表示」と、電気を使う場合の追加規制
品質表示法衣類は繊維組成・洗濯絵表示(JIS L0001)・表示者名が必須
電気用品安全法ACアダプタなどはPSEマーク対象。電池おもちゃは電池蓋のねじ止め(ST側の要求)とあわせて

→ このガイドの説明:5 チェックリスト(子ども服・成形品)

EU規制(輸出時)

RoHS指令(電気電子機器の有害物質)

EUに売る場合のみ法的義務(国内販売のみなら義務なし)。日本の玩具規制とは「測り方の思想」が違う
RoHS=含有量規制材料中の総量を制限:鉛0.1%・水銀0.1%・カドミウム0.01%・六価クロム0.1%・臭素系難燃剤(PBB/PBDE)0.1%・フタル酸4種 各0.1%の計10物質
日本の玩具規制=溶出規制唾液・汗に「溶け出す量」で判定(食品衛生法・ST第3部)。溶け出さなければ含有は問わない
日本のすき間臭素系難燃剤の含有規制なし。電安法(PSE)は電気的安全のみで物質規制なし。J-Mossは特定家電7品目の表示制度のみ
EU向け電動おもちゃ RoHS+EN 71+玩具指令(CEマーキング)の三点セット

実務のコツ:国内販売のみならRoHSは法的義務なし(国内の強制法規は食品衛生法・電安法など)。ただし大手取引先の調達基準で要求されることが多く、基板・電子部品は「RoHS適合品」が標準流通しているため、国内専用でもRoHS適合部品で組むを社内ルールにすると追加コストほぼゼロで厳しい側に揃う。中国・韓国などにもRoHS類似法があり仕向け地ごとに要確認。→ 4-6 化学物質国際規格カード

EU規制(輸出時)

REACH規則(化学物質の包括規制)

EUに売るあらゆる製品(服・おもちゃ・雑貨)に適用される化学物質の横断ルール。RoHSより広い
制限物質(附属書XVII)用途別の禁止・制限リスト。玩具・育児用品のフタル酸4種0.1%、アクセサリの鉛・カドミウム・ニッケル、革の六価クロム、アゾ染料など
SVHC(高懸念物質)候補リスト(年2回更新・約250物質)。製品中0.1wt%超で川下への情報伝達義務+消費者から聞かれたら45日以内に回答
対象の広さ電気製品に限らず「成形品」全般=縫製品もぬいぐるみも対象。RoHSは電気電子機器のみ、REACHは全部

実務のコツ:EU向けは素材調達時に「REACH対応(SVHC含有調査票つき)」を条件にするのが定石。国内販売のみなら法的義務なし。→ 4-6 化学物質SVHC候補リスト(ECHA)↗

米国規制(輸出時)

CPSIA(米・子ども製品安全改善法)

12歳以下向け製品ぜんぶ(服も玩具も)が対象。「第三者試験+証明書+追跡ラベル」が三点セットで義務
鉛の含有規制基材100ppm以下・塗膜/表面コート90ppm以下(総含有量ベース。日本の溶出規制より厳しい思想)
フタル酸8種各0.1%以下(玩具・チャイルドケア用品)。日本・EUの規制物質より数が多い
手続きの義務CPSC認定ラボでの第三者試験 → CPC(子ども製品証明書)発行 → 製品への追跡ラベル(トラッキングラベル)表示。玩具はASTM F963が強制規格

実務のコツ:米国は「試験成績書がないと通関・Amazon出品できない」運用が徹底している。小部品はCPSC 16 CFR 1501(シリンダー、日本と同形状)。→ 4-1 誤飲・窒息CPSC解説↗

韓国規制(輸出時)

KC認証(子ども製品安全特別法)

13歳以下向け製品にKCマークが必須。リスクの高さで手続きが3段階
安全認証(高リスク:乳幼児用品等) 安全確認(試験+届出) 供給者適合性確認(自己確認)
共通安全基準重金属・フタル酸(0.1%)などの化学要求+品目別の物理要求。玩具は日本ST・ISO 8124と似た構成
対象年齢「13歳以下が使う製品」と広く、子ども服・文具・雑貨も品目指定されている

実務のコツ:韓国指定試験機関での試験が必要になるため、輸出が視野にあるなら日本の試験とまとめて依頼すると効率的。→ 6 評価・認証の流れSafety Korea↗

中国規制(輸出時)

中国 CCC認証・GB規格

玩具は強制認証CCC、子ども服はGB 31701。中国国内販売には必須
玩具:CCC+GB 667514歳未満向け玩具の一部品目はCCC(中国強制認証)必須。技術基準はGB 6675(ISO 8124ベース+独自要求)
子ども服:GB 31701乳幼児・子ども繊維製品の安全技術規範。肌への接触でA類(乳幼児)/B類/C類に分類し、ホルムアルデヒド・pH・ひも規制(EN 14682系)を規定
電気:China RoHS電子電気製品の有害物質規制(表示中心)。EUのRoHSとは運用が異なる

実務のコツ:中国は「規格の中身は国際規格ベースだが、認証手続きとラベルが独自」。現地代理人・中国指定ラボが必要になるため、商社・認証代行の利用が一般的。→ 国際規格カード

海外展開の早見表

仕向け地玩具の枠組み子ども服化学物質特徴
日本ST基準(任意)+食品衛生法JIS L4129(任意)+家庭用品規制法溶出中心自主基準が実質標準
EU玩具指令+EN 71+CE(強制)EN 14682(ひも)REACH+RoHS(含有中心)SVHCの継続監視が必要
米国CPSIA+ASTM F963(強制)CPSIA(鉛・ひも引火性等)鉛100/90ppm・フタル酸8種第三者試験+CPC+追跡ラベル
韓国KC(強制・3段階)KC品目指定あり共通安全基準指定ラボでの試験
中国CCC+GB 6675(強制)GB 31701(A/B/C類)GB各論+China RoHS現地手続きが独自

3対象年齢で要求ががらりと変わる

同じおもちゃでも「何歳向けか」で適用される要求が大きく変わります。最初に対象年齢(月齢)を決めることが、設計のスタート地点です。

0歳1歳2歳3歳6歳7歳13歳14歳 〜36か月未満:小部品・小球の禁止(誤飲・窒息) 〜24か月以下:ホルムアルデヒド最厳格(繊維製品) 〜6歳未満:食品衛生法の「おもちゃ」規制(材料・溶出) 〜年少の子ども(服の呼び方120まで):JIS L4129 ひも最厳格 年長(130〜160) 〜14歳未満:ST基準(おもちゃ全般) ※月齢・年齢のラインをまたぐ製品は、厳しい側に合わせるのが原則

図2 年齢と主な規制の適用範囲。「36か月未満」と「24か月以下」が2大分岐点

規格の全体像はここまで。実際の設計・試験方法・チェックリストは評価編へ:

評価編を読む →(4. ハザード別 設計・評価法ほか)